「健康寿命延伸」の幻想

2019/08/22

 安倍首相肝いりの人生100年時代に向けた社会保障政策として、2040年までに2016年に比して3歳以上「健康寿命(健康に生活できる期間)」を伸ばし75歳以上にする、とのお達しがあった。
 この政策の手綱を握っているのは厚労省、財務省でもなく、予防・健康管理への重点化により「健康寿命」を延ばせば高齢者医療費削減につながる、と吹聴している経済産業省である。
 しかしながら一部の事例を除いて、予防医学で医療、介護費の削減が可能であるというエビデンスはなく、長寿化による医療費の増大や、対策費用が削減費用を上回ることは、公衆衛生学、医療経済学の世界では共通の認識であり、その良い実例が生活習慣病対策として鳴り物入りで行われた特定検診・特定保健指導である。
 国が率先して「健康寿命」重視の政策を取ることは、紛れもなく高齢者に長生きへのプレッシャーを与えてしまう。つまり「不健康な長寿は無意味な生であり、国にとって悪、無駄である」と。自立できない高齢者に対する退場論(逆シルバーシート論)を声高に主張する御用学者を見かける昨今、「健康寿命延伸」の幻想には要注意だ。

(西宮市、Y・K)