「医系技官」と「感染症ムラ」
2022/05/01
我が国の新型コロナ感染症対策での大きな問題として「医系技官」と「感染症ムラ」の存在があげられる。
まず「医系技官」とは医師免許(or歯科医師免許)を保有し、保健医療制度に関わる政策の立案・決定・実施に関わっている厚生労働省の官僚で、国家公務員総合職として現在約300名程度在職している。「医系技官」には行政官と医師としての両方の専門性が必要とされるが、他の国家公務員キャリア組と違い国家公務員試験が免除されており、無試験(一応、書類審査、小論文、グループディスカッション、面接、性格検査はある)で入省している。彼ら、彼女らは「小医は病を癒す、中医は人を癒す、大医は国を癒す」の言葉を好み、自らを大医と称しているのである。新医師臨床研修制度からは数年の臨床経験が必要になって入るが、一定の役職の医系技官の半数近くが臨床経験ほぼゼロの「ペーパードクター」であり、厚生労働省内で出世するには、医学部卒業後に医療現場での臨床経験を重ねるよりすぐに入省して官僚として務める事のほうが重要なのである。つまり、一般の医療や新型コロナ感染症の現場を知らない「医系技官」が指示を出し、混乱を生じさせているのである。結果として新型コロナ感染症の無症状感染者がいるのに、無意味で旧泰然とした結核時代の積極的疫学調査(濃厚接触者を一生懸命に探し出す)に固守したうえ、陽性患者数抑制のためのPCR検査抑制方針と併せて、無症状感染者による市中蔓延を引き起こしたのである。
一方の「感染症ムラ」も問題山積である。昨年8月の時点で「3回目ワクチンの早期接種が必要」、と英国の公衆衛生当局の研究結果が発表され、主要各国は追従。イスラエルでは3回接種で2回接種に比べ死亡率が10分の1に、またロサンゼルス市では3回目接種でコロナ感染リスクが44%、入院リスクが77%減少した、と報告されながら国立感染症研究所、脇田所長は3回目の追加接種の必要性を留保してしまった。そのため日本以外のG7諸国はオミクロン株流行以前にほとんどの高齢者は3回目を接種したのに比べ、日本は7割以上の高齢者が3回目未接種で第6波に突入してしまったのである。更に、3月、ロシアのウクライナ侵攻報道に隠れるかのように国立感染症研究所、脇田所長がメディアに対して「新型コロナは空気感染である」旨、やっと認め公表したのである。既にWHOやアメリカのCDCは主要な感染経路は空気感染(空中浮遊のエアロゾルを通して)と公表していたのに、「新型コロナウイルスの感染経路は飛沫感染と接触感染」を頑なに主張していたのであり、明らかに世界レベルから感染症対策の未熟さを暴露したのである。
我が国において新型コロナ感染症対策が迷走しているのは、海外のように臨床研究成果を公表し、議論を行うのではなく、仲間内である「医系技官」が決定し「感染症ムラ」に追認させているからであり、根本的な改革が必要である。