妊婦を守るためには

2019/01/07

 少子化の進行はなかなか止まりません。2018年12月の厚生労働省発表人口動態統計によると2017年の出生数は前年より3万人余り少ない94万6060人で、史上最低を更新中です。一人の女性が生涯に産む子どもの数の平均である合計特殊出生率も1.43と2年連続低下です。都道府県別では東京都がもっとも出生率が低く男女とも就労と育児の両立に課題を抱えているに違いありません。
 そもそも出産・子育ての基本である妊娠の維持については職場で妊婦を保護(母性保護)すべきことが女性労働基準規則に規定されています。同規則では有害物質が発散する場所での妊婦の就業が禁止されているばかりではありません。第12条では妊娠中の女性労働者が医師による保健指導や健康診査を受ける時間を確保すること、第13条では彼女らが医師等から指導を受けた場合にそれを守ることができるよう勤務時間を含め勤務による負担軽減等の配慮・措置をおこなうこと、を事業主に義務づけています。このような配慮のための医師・事業主間の連絡ツールである「母性健康管理指導事項連絡カード」なるものも作られており、活用する際は多くの場合、健康保険外で妊婦本人あるいは事業主に対価を負担していただいています。課題によっては産科以外の専門医から指導助言が必要な事態もありえましょう。このような制度は就労していない女性の妊娠維持においても同様に必要です。
 本年4月の診療報酬改定により「妊婦加算」が設定され、健康保険診療における診察料が妊婦以外の人より高くなりました。診療科目に関わらず妊婦の外来診療においては胎児への影響に注意して治療薬を選択する、妊娠維持に配慮した生活指導を行う、ことが少子化の進行阻止に貢献すると評価されたものと確信します。しかしながら妊婦に制度や診療を含む医療サービスに関する十分な説明がなされず算定されたとか、妊婦であろうとなかろうと同様の診療でよい(コンタクトレンズ調整のための検査など)のに算定されたとか、初診時に担当医が妊娠中であることを意識せず、あるいは気づかず診療を始め、2回目以降から妊婦としての診療に移行し算定されたとか、不適切な事例が少なからずあり、2019年1月からこの診療報酬は一旦凍結されることになってしまいました。
 診療報酬に関する決定は日本医師会代表ら診療担当者の代表者も出席する中央社会保険医療協議会(中医協)で慎重な審議を経てなされるべきものですが、今回は政府の鶴の一声で強行的に決定されてしまいました。確かに不適切な事例発生については医療側が責めを負うべき点が多々あるのですが、妊娠に配慮して安全な医療サービスを提供することの意義を否定する人はいないはずです。具体的にどのような医療サービスが提供されれば妊婦加算に値するのか、医療者・国民が一体となりもっとじっくり考えて決定すべきことと思います。

尼崎市 K・S