本末転倒なマイナ保険証
2023/08/01
マイナンバーカードをめぐるトラブルが後を絶たない。年金情報を他人が閲覧したり、公金受取口座に家族名義の口座や他人の口座が登録されたり、あげくの果ては別人にマイナンバーカードが交付されたり、トラブルをいちいちあげていけば枚挙にいとまがない。
トラブルそれぞれの原因は「登録時の人為的なミスが原因」とのことであるが、人為的なミスが発生しているそもそもの原因は、マイナンバーカードの普及を急ぐ政府の姿勢にあると思われる。マイナンバーカードは2016年に交付が始まったが普及が進まず、最大2万円分のマイナポイントがもらえるキャンペーン「マイナポイント第2弾」が始まった2022年6月以降は申請が急増した。しかしながら、これでも申請が充分に進まないと考えた河野デジタル担当大臣は、2024年秋の健康保険証廃止とマイナ保険証への一本化を表明し、マイナンバーカードの一層の普及を促した。「保険証が使えなくなったらみんな困るから、マイナンバーカードをつくるだろう。ウシシ」という魂胆が見え見えである。あげくの果てに、マイナ保険証に別人の医療情報が登録されたり、本人の同意なくマイナンバーカードに保険証機能を持たせたために、本人の知らぬ間に従来の健康保険証が使用できなくなった等、利用者に不安を持たせるようなトラブルが頻発している。
新しい制度を始めようとすると、それなりにトラブルが発生するであろうことは容易に想像できるし、人為的なミスやシステムの不具合等も、その制度がもたらすメリットを考慮すると、ある程度許容せざるを得ないものであるとは思う。厚生労働省が「医療DX令和ビジョン2030」のなかで医療DXの目的として謳っているように、マイナンバーカードを通じて、「国民の健康データ保存の外部化・共通化・標準化がなされ、国民自身の疾病や介護予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えることができる」のならば、それは患者様側にとっても医療者側にとってもメリットのあることであるし、世の中全体の流れとしてすべてがデジタル化に向かっている方向性に対して抗うことはできないとも思う。しかしながら現在の状況では、マイナンバーカードが何なのかもよくわからないで保険証が使えなくなったといわれて窓口であたふたする方や、トラブルに巻き込まれていても気が付かないで過ぎてしまう方が多数出現する可能性が否定できない。
国民の命に係わる健康保険証は、マイナンバーカードのシステムが安定して皆が安心して使用できる状況になってから、マイナ保険証に移行すべきである。システムが不安定なまま何が起こるのかもよくわからない状況で、マイナンバーカードの普及のために従来の保険証を廃止する期限を区切ってマイナ保険証に移行するといった、保険証をマイナンバーカード普及のための手段として利用するような今回の政策は、本末転倒であると思われ、どうにも賛同できない。しばらくは経過処置として、マイナ保険証と従来の健康保険証を併用するといった形で、来年秋の健康保険証廃止は延期することが妥当であると考える。
という原稿を書いているうちに、岸田首相は6月21日の記者会見で、不安払拭のメドが立たなければマイナ保険証への移行を先送りする可能性を示唆したらしい。首相お得意の「聞く力」が少しは働いたのだろうか?「聞いたふり」に終わらないことを願う。
宝塚市 H.A.