国の予算全体を視野に入れた財政論議を喚起 日医総研報告書

2003/07/02

日本の国家予算は2003年度予算べ-スで232・6兆円に上り、社会保障給付や義務教育負担として国民に直接還元されているのはこのうちの60・4兆円にすぎない-。

日本医師会のシンクタンクである日医総研は2日、報告書「入門 国家予算の読み方-社会保障費を中心に-」(研究者=前田由美子日医総研主席研究員)をまとめた。一般に日本の国家予算は80兆円程度と認識されているが、これは一般会計に限った話。一般会計の数倍に上る金が特別会計にあり、その一部が官僚の天下り先となる特殊法人などへ補助金として流れていることを明らかにした。補助金をカットし、国家公務員の人件費と経費も民間企業のリストラ並みにカットすれば、歳出を12・5兆円削減できる可能性があると指摘。「財政改革が国民への痛みのしわ寄せをするのではなく本当の無駄を削いでいくよう願う」としている。

千数百ページに及ぶ財務省の予算書の科目をひとつひとつ仕分けし、国家予算の全体像とその使い道を明らかにした。2003年度予算における歳出(支出)は一般会計81・8兆円、特別会計199・7兆円。これらを連結して重複部分を除いた国家予算の歳出合計は232・6兆円となる。このうち、社会保障給付や義務教育負担として国民のために使われているのは60・4兆円。残りは国債などの債務償還、地方交付税交付金、国家公務員の人件費や経費などに使われているが、歳出合計の7%にあたる15・3兆円は官僚の天下り先の特殊法人、独立行政法人、公益団体に補助金として流出している。

歳出合計のうち社会保障費は60・9兆円で、57・3兆円は医療、介護、年金などの給付費として国民に直接給付されている。残り2・4兆円は人件費と経費、1・2兆円は補助金となっている。政府は、税収の伸び悩みなどで国家財政は逼迫しており、医療財源を捻出するのは困難として保険料への総報酬制導入、患者自己負担の引き上げなどに踏み切った経緯がある。報告書は、従来の医療財源論議が一般会計(2003年度予算ベースの社会保障責19・0兆円)にしか焦点をあてていなかったことを問題視。特別会計を含む国家予算全体に目を向ける必要性を示した。

そのうえで民間企業のリストラを参考に
 (1)特殊法人や独立行政法人へ流れていると確定できる補助金等3・1兆円を廃止
 (2)自治体や公益団体などへ間接的に流れる補助金12・3兆円を50%カット
 (3)国家公務員の人件費7・6兆円を5%カット
 (4)国家公務員の経費・施設費5・8兆円を50%カット

-を行えば歳出を12・5兆円削減する余地があると試算。「現状の歳入規模でも69・8兆円(社会保障給付費57・3兆円+12・5兆円)までの社会保障費を賄える可能性がある」と指摘した。

報告書は厚生年金と国民年金の繰越利益153兆円を社会保障費に充てることも提案。年金積立金の一部は、貸付け先の自治体や特殊法人が債務超過に陥って不良債権化していることから、運用益を期待するよりも、「財務省の責任において健全化を図り、必要なときに社会保障給付のために取り崩されるべきだ」と述べた。

日本医師会の青柳俊副会長は、「現在の構造改革は財務省のためのものであり、三方一両の一方が欠けたまま進んでいることに非常に危機感をもっている。一般会計81兆円の世界ではなく特別会計を含めた233兆円という予算を国が動かしているという前提で議論する必要がある」と話している。

JPNニュース(7月1日)より